【為替】2024年7月の「円安大転換」を振り返る | 吉田恒の為替デイリー | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア

3度目の介入がきっかけになった円安の急反転

2024年7月、米ドル／円は、3度目の米ドル売り介入をきっかけに円高に転換した。その後1ヶ月も過ぎない2024年8月5日には「令和のブラックマンデー」とされた世界的な株価暴落を横目に141円まで米ドル安・円高となった。ほんの1ヶ月弱で約20円もの米ドル／円の大暴落が起こったのだった（図表1参照）。なぜ、当時日本経済衰退化を受けた「終らない円安」、「永遠の円安」とされた円安は、円高へ急変したのか。

【図表1】米ドル／円の週足チャート（2024年1月～） 出所：マネックストレーダーFX 当時、米国の通貨政策の責任者、イエレン財務長官は「介入はまれであるべき」との発言を繰り返していた。これは、米政府の介入牽制であり、日本はもう介入できなくなったとマーケットでは考えられていた。

それこそがこの局面で161円までの円安を再燃させた最大の動機だっただろう。しかし、日本の当局による米ドル売り介入を実施し、それが円安急反転のきっかけとなった。

大幅な金利差円劣位による「合理的過ぎる」円売りのバブル化

2024年7月の161円までの米ドル高・円安は、日米金利差（米ドル優位・円劣位）の縮小を尻目に起こった（図表2参照）。

【図表2】米ドル／円と日米10年債利回り差（2024年） 出所：リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成 異様なほどに金利差からかい離して広がったその円安を正当化したのは、縮小したとは言ってもなお絶対的には大幅な金利差円劣位からすると合理的過ぎるほどの投機筋の円売りが過去最高規模に拡大したことだった（図表3参照）。

【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジションと日米政策金利差（2005年～） 出所：リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成 大幅な金利差円劣位からすると合理的な円売りが、短期的に急激な円高をもたらすことから「最大の脅威」と感じてきた当局の円買い介入ができなくなった可能性があるとされていた。そのため、マーケットが「暴走」を始めたことこそが、あの161円までの「歴史的円安」と呼ばれた動きの正体だったのだろう。

しかし、米財務省は本当に日本の介入に反対していたのか。これについて、後日関係者の1人に質問したところ、「介入するなということではなかった。学究肌のイエレン財務長官はあくまでそもそも論を展開したに過ぎなかった」との説明だった。事実として、日本の当局は3度目の介入に踏み切り、それは結果的に歴史的円安とされた動きを反転させるきっかけとなった。

1ヶ月弱で20円の米ドル／円大暴落が証明した「円売りバブル」

ただ、「やるな」ということではなかったとされるこの3度目の介入だったが、「やり過ぎ」だったのではないかとの意見は国内外からあったようだ。結果的に、この少し後の2024年7月末に日銀は利上げし、そして2024年9月からFRB（米連邦準備制度理事会）の利下げが始まった。日米の金融政策の変更により、放っておいても米ドル高・円安は反転するタイミングが近づいていたわけだから、あの介入は余計だったのではないかとの考え方もあったのだろう。

しかしあの渦中で米ドル／円を見ていた私からすると、日米の金融政策の変更を円安終了の頼りに介入を行わない状況が続いたら、米ドル高・円安は165～170円くらいになってもおかしくなかったように感じる。歴史的円安の終わりが161円だったか、170円になったか、それを左右したのは「やり過ぎ」との批判もあった中で行われた2024年7月11日の「3度目の介入」ということだったのではないか。

そして161円から円安が反転すると、1ヶ月弱という短期間に約20円もの急激な円高が起こった。このような異常な値動きは、「バブル破裂」でなければ起こりえないものだったのではないか。介入はあくまできっかけに過ぎなかった。それをきっかけに、異常に急激な円高が広がったことこそ、161円までの円安が、円売り「バブル」によってもたらされたものだったことを証明したと言えるのではないか。